非平衡定常状態について その1         2/ 2/ 1(金)

( 2/ 3/ 1(金)に簡略化)

ご存じの方も多いと思うが、佐々さんや田崎さんが Steady State Thermodynamics (SST) の構築に取り組んでいる。意欲的な試みだと思うので、佐々さんや田崎さんに質問したり意見を述べたりすることもあるのだが、それは、個人的な意見交換で終わってしまう。(そのうちに書こうと思っている理由で)それはよくない事だと思うので、僕の質問とか意見の一部を公開するのも有益かもしれないと考えて、筆をとった。

(1)(電荷か何かの)流れに平行に、平衡系がくっついているモデル。
僕には、この設定を近似的にでも実現する物理系は、線形非平衡の実験事実と明白に矛盾するので、実在しないと思われる。それは佐々さんも認めているようだが、ある数値実験のモデルがあって、それを非平衡に拡張した架空の系に対して、そういう系でもSSTがあるかどうかをチェックすることに意義があるらしい。僕には、うーん…であるが、そういう考え方もありうるのかなぁ…。(架空の世界の現象論というのは、普通の判断基準では却下されるべきだが、新しい概念としてありうるのかも。)それに、自由エネルギーの変数の取り方も僕には???であるが、架空の世界ならありうるのかな?

(2)熱の流れに垂直に、壁を介して平衡系がくっついているモデル。
壁との接触に理想極限をとることが、平衡系熱力学よりもずっときつい制限になっている。平衡系では、どんな材質の壁を持ってきても、平衡状態では「温度が等しくなる」というのは全く同じだから、壁の材質はどうでもよく、その結果、壁を単なる束縛とすることができた。佐々さんたちは、壁については理想極限をとることによって熱伝導体のバルクな性質をピックアップしよう、という意図らしいが、それでいいのかどうか、僕にはよく判らない。

(3)流体の閉じこめられた容器の壁の一方がずり運動し、反対の壁には平衡系がくっついているモデル。
これは、前に佐々さんが談話会で話したモデルだが、昨日佐々さんと話すまで、すっかり忘れていた。これについては、僕は流体に関する知識がほとんどゼロなので、判断できない。

ようするに、数学レベルでの整合性には文句はないのだが、非平衡系の現象論としての整合性については、僕にはわからない点がいろいろある。しかし、まあ、あの2人のことだから、1年後には、SSTもずっと進化していることだろう。その時は、SSTは、(他の非平衡の理論もそうであったように)局所的な記述に発展しているであろう。そこで、最後に、(SSTを離れて)局所的な記述に関してちょっと書いておく。(プロには「あたりまえ」と言われそうだが、この雑記は原著論文ではないのだから、別に構わないのだ。)

非平衡系と平衡系を接触させる時は、弱いリンクを通じて、小さな領域だけ接触させ、そのリンクの中にネットに流れが生じないように、平衡系の状態(μなど)を調整するのが便利である。実際、そうやった時の平衡系のμの値こそが、電流が流れている非平衡系の中の局所的なμとして広く認められている、ほとんど唯一の定義である。(平たく言えば、実験的に、ポテンシオメータなどで測られるμである。)非平衡系だけみると、とてもμを定義できそうもないような状態にあっても、弱いリンクを通じて接触させた平衡系をデバイスとしてμが定義でき、計れるのだ。しかも、そのようなリンク+平衡系を多数用意して、あちこちにくっつけて測れば、μが局所的に、各点各点で定義でき、計れるのだ。(μだけでなく、温度とか圧力とかも、こうやって局所的に定義ができる。)温度が均一で、電流の流れている非平衡定常状態では、μが系全体で同じ値をとることはありえないので、非平衡状態の理論には、このように局所的に定義されたμが出てくるべきだと思う。

なお、これから判るように、、局所的にμとかTとかを定義して構成された理論が、必ずしも局所平衡仮説を採用しているとは言えない。局所的にも非平衡である場合でも、μとかTとかが、ここに書いたように定義されているとすれば良いのだ。

#なお、「その2」は、SSTを離れて、非平衡定常状態について僕が感じている事を書く予定です。