多自由度の量子カオス

03-10-01

 

1年以上前になるが、基研で行われた「場の理論研究会」という研究会(翌年からは、世話人をやらされています…今年も12月に開きますのでよろしく)に呼ばれて、多体量子系の安定性について話をした。その研究会には、量子カオスのエンタングルメントについての先駆的な研究について講演した、杉田さん(当時は阪大のPDで、今は基研のPD)が居た。

 

僕は杉田さんの研究が面白いと思ったが、杉田さんも僕の話に興味を持ってくれて、後日、セミナーで上京、もとい、東京に下ったときに、僕の研究室を訪ねてくれた。(杉田さんは、京大を修了して阪大に行ったから、関東などと言う野蛮な地に下るのはそれが初めてだったそうだ。おそらく、島流しにあうような心細さだったのではないか?)それで、2人の研究を合わせた先に見えるもの--多自由度の量子カオスを新しい視点で分析する--というテーマに2人で挑戦することになった。

 

量子カオスというと、準位統計の研究とか、池田さん・首藤さん・戸田さん・足立さんらに代表される量子-古典対応の研究など、すばらしい研究がたくさんあるわけだが、僕の(ひねくれた)物理の趣味趣向とは、いまひとつ合っていないな、と感じていた。(誤解のないように書いておくが、研究者によって趣味趣向が違うからこそ様々なことが解明できるわけで、趣味趣向が合わないのは喜ばしいことである。)

 

たとえば、僕の量子論の教科書で強調したように、量子系と比較すべき古典系としては、量子論と同じ変数・自由度・ハミルトニアンを持つ古典系は、狭すぎるのではないか?量子系の本質の中には、もっと広い古典論と比較したときに初めて見えてくるものもあるのではないか?また、計算機の都合で、自由度の小さい量子系が主たる解析対象になっているが、ミクロからマクロへのつながりに興味をもつ僕としては、やはり、大きな自由度を持つ量子カオス系の事を知りたい。カオスがマクロ世界を作ると言うが、肝心の量子多体系でどうやってマクロ世界が作られるのか、分析されていないのではないか?

 

というわけで杉田さんといろいろと議論して(大部分は杉田さんにおんぶして)、ようやく論文にまでまとまりました。ご意見・ご批判を歓迎します。

 

(おおざっぱな内容については、後日ここに追記します…って、いつになるやら。)

 

なお、この論文では、熱力学との対応も書きたかったのですが、レフェリーが次のことを理解してくれていないと(※)、確実にrejectされてしまうので、残念ながら書きませんでした。

 

ギップス状態(無限系だったらKMS状態)= 必要充分なマクロ変数を指定した時の熱平衡状態

は(エルゴード性などの条件を全て認めれば)正しいが、熱平衡状態はこれに限られるわけではない。つまり、

熱平衡状態 ギップス状態(無限系だったらKMS状態)

 

なので、たとえば、有限温度の熱平衡状態も、量子力学的純粋状態でありうる。(注:「ヒルベルト空間を広げれば、ギップス状態も状態ベクトルでかける」というよく知られた事実を言っているのではありません。)

 

上記の論文に書きたかったことは、そのうちに、どこかに杉田さんといっしょに書くことにします。

 

 

(※)田崎さん(学習院&早稲田の両田崎さん)とか、立命館の池田さんとかは、こういうことをよく分かっているけど、そういうレフェリーに当たる確率は低いと思う。なにしろ、田崎さん@学習院によると、E. Lieb でさえ、すぐには理解できなかったそうですから。ちなみに、僕の駒場での1・2年生向けの統計物理の講義では、こういう重要事項はきちんと教えています。良い教科書があるといいのですが…。

 


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