東京大学 教養学部 文科生向け講義(2015年秋学期)

2015年9月-2015年12月:毎週木曜日10:25-12:10 @駒場Iキャンパス11号館1101号室

内容

時間と空間と物理学

 物理学の発展は、我々の、時間や空間に対する理解や見方までも変えてゆく。そのことを、アインシュタインの1905年の特殊相対性理論による大革命を例にとって解説し、その壮大な風景を垣間見てもらうことが本講義の目的である。
 物理の考察の対象は広大だが、もっとも簡単な対象は、たった1個の粒子である。この講義では、その1個の粒子の運動を考えるだけでも、すでに、時間や空 間に関する根本的な考察が必要になることを示すことから始める。そして、時間に関して、「時間は万物にとって等しく流れる」というきわめてもっともらしい 仮定をおき、それに加えていくつかの「さらにもっともらしい仮定」もおく。それらの仮定の下に、既知の実験結果を参照しながら、論理を積み重ね、様々な論 理的帰結を導く。こうして、アインシュタイン以前の理論である、ニュートン力学に到達する。
 一方で、少し観点を変えて、「はたして、影響や情報が遠方に伝わる速度に上限があるのだろうか?」という問いを発してみる。ニュートン力学を正しいと認 めると、上限がないことが結論できる。しかし、「上限がある」というのもまた、「きわめてもっともらしい仮定」ではないか?そこで、「影響や情報が遠方に 伝わる速度には、上限がある」という仮定を出発点に据えてみる。それに加えて、ニュートン力学を導いたときと同様の、「さらにもっともらしい仮定」もお く。それらの仮定の下に、論理を積み重ね、様々な論理的帰結を導く。すると、ニュートン力学の根本的な仮定であった、「時間は万物にとって等しく流れる」 という「きわめてもっともらしい仮定」が否定されてしまう!
 こうなると、どちらの理論が正しいかは、実験で判断するしかない。全ての実験結果は、相対性理論を支持した。その結果、「時間は万物にとって等しく流れ る」という、人類が、おそらく地球上に現れてから1905年になるまでの数百万年の間ずっと信じていたであろう常識が否定されてしまったのだ。その常識が 正しいように見えていたのは、測定精度が低い、または、測定対象が限定されていたために過ぎなかったのだ。
 以上のような壮大な知的冒険は、単なる「お話」レベルの講義では、味わうことは不可能である。そこで、物理学を理解するのに(現在知られている中で)最 良の言語である数学を使いながら、できるだけきちんと教える。もちろん、必要な数学の知識はその場で全て教えるが、論理を何段も積み重ねて結論に達するの で、真剣に学ばないと全く何も理解できないだろう。しかし、真摯に学べば、最後には、壮大な風景を垣間見てもらうことができると思う。

注意
生の板書なので、誤字・脱字があります。
著作権は清水にあります。((c) Akira Shimizu)

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半年間、お疲れ様でした。 まだまだ語りたかったことはたくさんありますが、また別の機会に。

2015/12/11 清水