マクロ系の量子状態の、弱いノイズに対する安定性、環境からの弱い摂動に対する安定性、局所測定に対する安定性について、これまでのまとめを、プレプリントサーバーに載せた。
この結果は、一般論のレベルでも、まだいろいろと調べたいことがたくさんある。例えば、測定に対する安定性について、上記の論文では、測定の時間間隔がゼロの場合しか書いてないのだが、有限の場合には、混合性に似た、実に意味深な関係式が出てくる。これを深く探りたい。また、ノイズの空間相関の理論も必要だ。
さらに、この一般論を具体的な系に適用して、その系に対する新たな一般論を展開する(つまり、より具体的な問題に対して、この一般論で展開した、安定性とマクロ変数のゆらぎやクラスター性との関係、という見方をしてみることにより、その問題に対する新しい一般論を展開する)という仕事も、今までに議論した有限系の相転移や量子計算機だけでなく、たくさんありうる。例えば、量子カオスの新しい見方とか、量子系の制御限界の新しい見方とか、非平衡量子統計力学や非平衡場の理論(これは、筆者の知る限り、まだほとんど定式化ができていない理論だ)へのひとつの指針の提供とか、ができそうだ。
しかし、問題は、僕と浮穴君の2人だけで調べられる範囲は限られていることだ。誰か、興味がある若い人、これらの問題について、我々と共同研究しませんか?共同研究してみようかな、と思った人は、メールを下さい。
その後、共同研究する人が見つかって嬉しい。(このHPを見て、ではないが…。)もっとどんどん増えるといいな。
先日、この話を、あるセミナーで行ったところ、ある高名な理論物理学者から、「pure
state って何ですか?」と質問され、「きっと高度なことを質問されているに違いない」と勘違いした僕は、「pure
か mixed かは、実は、可観測量をどの範囲にするかで変わり…云々」という説明をしたが、そうではなく、本当に素朴な意味での「pure
state って何ですか?」という質問だったのだ!途中でそれに気付いて素朴な説明に切り替えたのだが、先にややこしい話をしたのが災いしたのか、「状態ベクトルで書けるのが
pure state です」と説明したあとでも、「pure state の状態ベクトルを足した状態ベクトルは
mixed state ですよね?」などと訊かれたりというふうに、話がうまく通じなかった。しかし、ここを理解してもらえていなければ、この話はまったく理解してもらえないので、セミナーは不調だった。pure
state/mixed state というのは、そんなに物理学者の間に共通知識として備わっているようなものではないらしい、ということを知って、ショックだった。やはり、量子論の新しい教科書を書かねば…。