東京大学 大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系・教養学部統合自然科学科 合併講義(2017年夏学期)

非平衡熱統計力学(相関基礎科学系)・量子力学特論(統合自然科学科) by 清水明 板書

2017年4月-7月:毎週金曜日13:00-14:45 @駒場Iキャンパス16号館119号室

内容

非平衡熱統計力学、特に量子系の線形応答を中心にして、基礎的な問題を講義する。
 線形応答理論は、正しく理解されているというにはほど遠い状況にあり、教科書にも論文にも、怪しげな論理展開と、明らかに間違っている結果が蔓延してい る。以下で参考書として挙げた推奨教科書にも間違った結果が書かれているほどである。 過去の講義では、それらの実例を挙げることは控えていたが、それでは伝わらないことがわかったので、今回は、実例を挙げながら、正しい理論と、未解決な問 題を解説する。
 さらに、非平衡統計力学が、他の分野でいかに活躍しているかも、実例を挙げて解説する。たとえば、揺動散逸定理は、応答からゆらぎを知るためにきわめて重要な関係式として、半導体レーザーやLEDの振幅スクイージングや、重力波検出装置の設計にまで、幅広くで利用されている。そのような実例を解説する。
 また、ごく最近の話題として、熱的量子純粋状態を用いた線形応答理論や、揺動散逸定理の量子破綻についても解説する。

授業計画

 線形応答理論、カノニカル相関の物理的意味、線形応答理論の感受率と熱力学的感受率の関係、量子論的断熱過程と熱力学的断熱過程の違い、熱的量子純粋状態による線形応答理論、揺動散逸定理の量子破綻などを講義する。

参考書

 
岩波講座 現代物理学の基礎 第2版 「統計物理学」(岩波書店, 1978)

レポートについて


単位が欲しい人は、講義の内容で、計算を略したところとか、「自分で」と指示したところからいくつかを選んで、自分で計算した内容をレポートにしてください。
そのレポートには、講義の感想も書いておいてくださると助かります。

提出先:清水の居室(16号館2階223A)の入り口に張ってある提出用封筒に入れてください。

〆切:8月6日(日)



注意
生の板書なので、誤字・脱字があります。
著作権は清水にあります。((c) Akira Shimizu)

last modified:


No.1 2017/04/07




No.2 2017/04/14




最後の所ですが、「量子力学的な断熱過程の結果は、熱力学極限では、熱力学的断熱過程の結果に一致するのではないか、という議論がされているが、僕は確認してない」と言いましたが、講義の後で、typicality(昨年の量子統計力学の講義を参照)を使えばほぼ自明にそれが成り立つことに気づきました。次回の講義で触れます。いずれにせよ、上記のように、熱力学を用いて等温過程の量で表した方が計算が簡単です。

No.3 2017/04/21





No.4 2017/04/28





No.5 2017/05/12







No.6 2017/05/26





No.7 2017/05/30





No.8 2017/06/09


講義の後の補足:
canonical Gibbs stateにおいては、磁場Bがsymmetry-breaking fieldのときも、反転してからB --> 0 とします。
B以外にsymmetry-breaking fieldがあるときも、それらを時間反転してから 0 にします。




No.9 2017/06/16

講義の後の補足:
minやmaxの下の「束縛」とか「束縛条件」の意味は、講義のときに口頭で言いましたが、念のため:「与えられた束縛条件の下でのminやmax」です。(緑色の熱力学の本を参照してください)



講義の後の補足:
うちの院生から、「板書はdU = - h dMとなっていたが、緑色の熱力学の本によると、dU = + h dM じゃないか」という指摘がありました。確かにそうなっていましたので、板書写真に白い線で修正を入れました。その結果、「磁気感受率の虚部は非負」という 期待通りの結果になりました。
堀田研の院生さん達に「符号が合っているか教えてくれないと堀田先生に言いつけるぞ」と言いましたが、これで解決ですm(__)m
それにしても、緑の本はちゃんと読まなあかんですね。いっぺんに10冊ぐらい大人買いして、積み上げて枕にして寝ると、あーらふしぎ、全て頭に入るそうです!

No.10 2017/06/23





No.11 2017/06/30




No.12 2017/07/07
最後にやった、揺動散逸定理の量子破綻のスライドをここに置きます

これで今年の講義はおしまいです。お疲れさまでした。

なお、この講義の内容を拡充した本(英語)を、大阪大学の浅野健一さんと共著で、World Scientific から出版する予定でいます。

清水@駒場