有限系におけるゲージ対称性の破れをどう理解するか?
2008/04/17, 2008/04/08
ハミルトニアンと秩序変数が交換しないような相転移の統計力
学には、色々と非自明なことが内包されている。
エネルギーと秩序変数を同時対角化できないので、「真空状態」
(平衡状態の絶対零度極限)を、素朴にエネルギーと秩序変数の同時固有状態に選ぶわけにはいかないからだ。
ところが、これを単純に、「とにかくエネルギー固有状態を選べばよい」と誤解している議論を見かける。特に、BECや超伝導などの、ゲージ対称性の破れが
起こるケースで、この素朴すぎる議論をしているのを、最近よく見聞きするようになった。
それではまずいので、2007年の秋に(数理解析研の小嶋先生の要請もあって)数理解析研で、2008年には高エネ研で詳しい解説をした。
いずれきちんとした論文を書くつもりではありますが、それはいつになるか分からないので、とりあえず、その原稿とスライドを公開いたします。
- RIMS研究集会 非可換解析とミクロ・マクロ双対性(2007/10/15-17) 講究録(数理解析研究所講究録に掲載予定)
- KEK研究会「量子論の諸問題と今後の発展」 (2008/03/20-21) ス
ライド (KEKのHPにて公開予定)
これらの中ではいくつかの問題を論じていますが、たとえば、2つの対立する考え方を対比しています:
A) Nの定まった孤立系を考え、その基底状態が、vacuumである。Nの異なる状態を重ね合わせるなんて、もってのほか。
B)
「Nの定まった孤立系」と、「わずかにNを環境とやりとりする系」では、実現される状態が大きく異なるので、どちらかを選ぶ必要がある。マクロ物理学と整
合するのは後者なので、よほどエキセントリックな(無限系と繋がらない)実験を想定しない限りは、後者を選ぶべし。
このAの見方に欠けているのは、マクロ物理学(特に無限体積極限)を論じるには、部分系を見れば十分である事と、部分系を見たときには、物理量(可観測量)はゲージ不変とは限らないという事実です。
僕はBが正しいと主張しています。実際、次のことが示せます:
全系は閉じていて、粒子数の定まった状態にあるとする。
それを、2つの部分系SとE(環境)に分割して考え、Eはいっさい測らないとする。
Eの粒子密度は、Sと同じでもいいし、違っていてもいい(つまり、全系は一様でもいいし、不均一でもいい)が、
Eの平均粒子数 >> Sの平均粒子数
とする。
SをさらにS1, S2に分割して考える。このとき、Sの状態として、
|α1>|α2>
という純粋状態が可能である。(|α1>, |α2>というのは、それぞれS1, S2の純粋状態で、coherent stateを相互作用のある系に一般化したもの)この状態では、Eの粒子数は定まっていない。
なお、Sの分割の仕方は任意であり、S1', S2'に分割して考えてもよい。そのとき、
|α1>|α2>=|α1'>|α2'>
である。
ですので、しばしば耳にする次のような主張は、全て誤りです:
「BECでは、秩序変数の期待値はいつもゼロで、ただlong-range orderがあるだけだ」
「2つの系の間のsuper currentが確定している状態で、2つの系がエンタングルしていないなどというのは、あり得ない」
「どんなに系のサイズが大きくなろうとも、系の粒子数は可観測量であり、無限系もそう考えるべきだ」
「上記のAは正しいがBは間違い」